2017年9月9日(フロントランナー)バイオリニスト・佐藤俊介さん

いきなりパガニーニから録音した人でした。

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(フロントランナー)バイオリニスト・佐藤俊介さん 

古楽に自由で大胆な新風

2017年9月9日03時30分

東京であった演奏会のリハーサルの合間に。

妻のスーアン・チャイさん(左)が古楽器フォルテピアノを演奏した

 小脇に抱えたバイオリンを戯れにかき鳴らしてさえ、音に命が宿る。アンサンブルで演奏すれば、縦横無尽な調べで音楽が輝く。

(フロントランナー)佐藤俊介さん 「芸術は100%の答えが出ると死んでしまう」

 作曲当時の楽器や奏法を用いる古楽の名門楽団「オランダ・バッハ協会」のコンサートマスターを、2013年から務める。来年6月には、30年余り楽団を率いた指揮者ヨス・ファン・フェルトホログイン前の続きーフェンさん(65)の後任として、音楽監督に就く。日本人の若手が伝統ある楽団を引き継ぐことは、現地で驚きを持って迎えられた。

 今年2月に就任を打診され驚いた。指揮者でもなければ、バッハ演奏で重要な声楽の専門家でもない。考えたすえ、「引っ張るのでなく、まとめ役のリーダーなら。すべてはできない、やらないほうがいい」と、腹をくくる。

 2歳でバイオリンを始めた。4歳の時、経済学者である父の留学でアメリカへ渡り、そのままアメリカで育つ。ジュリアード音楽院プレ・カレッジやカーティス音楽院で学び、19歳になった03年、CDの演奏でとりこになったジェラール・プーレさん(79)に教わるため米国からパリに移った。

 金属弦のモダンバイオリンを学んでいたが、パリでは、羊腸製のガット弦やそれを張った古楽器を楽器店でよく見かけた。「アメリカで見たことがなく新鮮で。バロック音楽の演奏会も身近で夢中になった」。09年、ドイツのミュンヘン音大でバロックバイオリンを学び、今はオランダを拠点にする。

 バロックから現代曲まで幅広く手がける。英語と日本語を軸に、行く先々で覚えたフランス語、ドイツ語、オランダ語も操りながら。「日本人だと特に意識することはない」。音楽監督への起用は、活動範囲を広げたい楽団側の期待も込められている。

 7月20日、ユトレヒトの教会であったバッハ協会のリハーサルでは、欲しい音を主張するが押しつけず、一人ひとりの感覚を取り込み音色を変えた。「信念はあるが支配しない」「皆に自由をくれる」。楽団員は異口同音だ。「俊介はバイオリンが母国語」。古参のチェロ首席奏者ルシア・スワルツさん(58)の言葉が、風通しの良さと相互の信頼感を映し出す。

 アムステルダム近郊の野外音楽祭で翌日開かれた本番は、リハの軽やかで余韻のある演奏と打って変わり、熱く歯切れのいい音で仕掛けた。残響が期待できない屋外ならではだ。「同じ曲でも同じ演奏は二度とない。場の雰囲気を大事にしたいんです」

 心の垣根も国境も軽々と超え、仲間や環境と相和した結果が、大胆な音作りに結実している。

 (文・星野学)