源氏たより144号

第三十四帖 若菜上の二回目(女三宮の婿選び)

 お答え申す中納言の若いに似合わぬ立派な態度に院は御目をとどめ、『これを御後見に』などそっと考え及び、「貴方は太政大臣の姫君方にお住まいになったとやら、長年の望みがかなったようで結構な事とは思うが、いささかうらやましく思う節もあるのですよ」とおっしゃいます。『何を仰せなのだろう』といぶかしく、思案するに、『女三宮を預ける人を見出して心安く出家の望みを果たしたいものだ』との院のご意向を漏れ聞いたことを思い出しますが、どうして心得顔にお答えできましょう、ごく障りなく応じて退出されるのでした。

 女房共は夕霧をもてはやしますが、年老いた者たちは「いやいや源氏の院の若いころに比べたら、とてもとても」、「あの院はまぶしいばかりの清らかさでしたわ」と騒ぎ立てます。院も「本当にあの方は常人ではない、今は貫録さえ添いて光るとはこれをいうのであろう。公の立場では目も鮮やかに立ち振る舞い、打ち解ければ似るものなく愛敬づき、しかも早い出世はふさわしくないと卑下されていたのだ。こちらの中納言は父院より若くして位も進み、公の才覚、心用いも劣ってはおらぬ。分に過ぎた昇進とも覚えぬ身の上だな」とお二方をおほめになるのでした。

 年かさの女房達に姫宮の御裳着の手配を命じつつ「六条の殿が紫上を成育されたように、この宮を養育してくれる人はいないものか。臣下にはありそうにない。内裏には中宮以下立派な女君たちがそろっている。やはり中納言に意中をほのめかそうか」とご相談されます。乳母らは「かの人は生真面目で、心揺るぐはずがございません」、「源氏の院こそ色好みですし、今も朝顔の斎院をお忘れになっていないそうですわ」と申すので、その方に御心も傾くのでしょうか。

 六条院に親しくお仕えしている左中弁がこちらに参り、三宮の乳母となっている妹とこの話を引き継ぎます。「朱雀院のお考えはごもっともですよ。皇女とは申せ女は宿世定めがたきものゆえ、確かな後見を持たねば」と乳母が語れば、「源氏の院は心長く、どんな女君であろうとお世話なさるご性質だし、宮がおいでになれば、対の上(紫上)でも気圧されることになろうよ。高貴な筋の方がお好みで、その意に染まぬ嘆きを漏らされる折もあるから、お二方はつりあいのとれたご関係だな」と弁も応じます。

                    補足説明

◎ 縁談に関わる乳母子

 当人の親が心配し、情報を頼りに人づてに探し始めるのは、今も昔も変わらいようだ。その際、世話を焼くのが乳母とその親族である。貴族の乳母や乳母子が、生涯にわたって奉仕する関係は、古代社会や封建社会では珍しいことではない。源氏物語でも、恋愛の全過程にかかわる乳母子が描かれるケースがある。柏木の乳母子「小侍従」がそれである。